【大久保コラム】小売業が商品を開発する


これまでマーケティングを担うのは、メーカーの役割とされていて、小売業はマーケティングというものに本腰を入れて向き合うことはなかった。メーカーのマーケティング部門は、その潤沢な資金力を生かして、商品開発の前に入念なマーケティング活動を行い、新商品の企画や販売戦略を行っている。市場環境の変動に関する調査はもちろんのこと、メーカーは「消費者」に対して大規模なインタビュー調査やアンケート調査を行い、データを分析して、どんな商品を開発し、どんなプロモーションによって販売するのかを決定する。

このようなメーカーのマーケティングは「分析的マーケティング」といえる。だが、分析的マーケティングではいつまでたってもお客様のことを考えた商品開発はできない。

分析的マーケティングは、商品中心のマーケティングとも言い換えられる。マーケティングの有名なフレームワークに「4P」というものがある。製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)にという軸に沿って商品開発をしていこうというものだ。

だが、昨今のように、お客様のニーズが激しく変化し、何が売れるかわからない時代には、このような分析的なやり方ではうまくいかない。売れると自信を持って開発した商品が売れなかったり、あまり期待していなかった商品が売れたりしている。

こういった環境の変化が激しく、何が売れるかわからない現代に適したマーケティングは、まずは作ってみて、売ってみて、仮説検証を繰り返すというものだ。この方が移り変わるお客様のニーズに合った商品を開発することができる。その際に、店頭におけるお客様の販売実績データというビッグデータをすでに持っている店舗は、仮説も立てやすく、大きなイニシアティブを持っている。商品を開発し、実際に店頭で販売し、お客様の反応をさらにデータ化すれば、商品の改良を進めることも、改廃を決めることもたやすい。常にお客様が目の前にいる小売業の売場は、最高のマーケティングの場なのである。

メーカーの分析的マーケティングに対し、このようなアプローチは「プロセス的マーケティング」といえる。これは商品中心のマーケティングに対して、お客様中心のマーケティングである。こと小売業のマーケティングについては、分析よりも、実行しながら修正していくというプロセス的なマーケティングのほうが向いているのである。

お客様中心のプロセス的マーケティングは、仮説を立てて、販売することがスタートになる。店舗に陳列をすれば、売れる、売れないがわかる。その結果検証し、修正を考えていく。店頭での試売を繰り返すことで、だんだん正解に近づいていく。また、お客様にとって、一番よい原材料の調達先はどこか、お客様にとって、一番よい在庫場所はどこか…等々、ありとあらゆる流通の工程を、小売業がお客様のニーズに沿って設計していく。

既にユニクロは原材料の調達先から、製造者、製造方法、在庫場所に至るまで、生産段階についてリーダーシップを持っていて、このプロセス的マーチャンダイジングを実現している。プロセス的マーケティングを行う過程で、小売業は商品開発に伴うこれまでに無いリスクを背負う必要が出てくるし、人材育成やノウハウを蓄積する必要もある。だが、マーケティングを担い、製造を行い、物流を行うことによって、小売業は価値創造業に生まれ変わる。営業利益率が10%を越えることもあるだろう。単にメーカーが作ったものを仕入れて陳列して販売するだけでは、この数値はなかなか出すことができない。

大久保恒夫著『AI流通革命3.0』(ビジネス社)より