【大久保コラム】店舗がPDCAを回し、お客様のニーズに合わせていく

AIの普及により、仕事の中でよく使われる「PDCA」の精度とスピードが上がる。これはプロセス的マーケティングを後押ししてくれる。小売業は売場という現場でPDCAを回すことができる。お客様中心のプロセス的マーケティングによって、売場をお客様のニーズに合ったものに変えていけるのだ。

PDCAは事業活動における商品管理や販売管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つで、「Plan」、「Do」、「Check」、「Action」の四つの頭文字をつないだものだ。

Planは「計画」で、これまでの実績や将来の予測などを元に業務計画を作成することだ。Do(実行)は計画に沿って業務を行うこと。Check(評価)は業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価すること。Actionは行動で、計画に沿っていない部分を調べて改善することを指す。

この4段階を順次行って1周したら、最後のAを次のPDCAサイクルにつなげる。螺旋を描くように1周ごとに各段階のレベルを向上させて、継続的に業務を改善していくのだ。この「PDCA」はマネジメントのモデルとして、多くの企業が長く取り入れてきた。

小売業でもPDCAが重要であるとして取り組んではいるが、まだまだ不十分な状況である。小売業の場合、商品単価が安いので、あまり手間をかけると、経費の割に成果が小さくなってしまう。データ量が膨大であれば、結果検証に時間がかかる。しかし、AIを活用して膨大なデータから結果を検証ができれば、PDCAが回しやすくなる。結果分析のロジックをAIに教えて自動分析させ、基準値を決めて、その値を超える、あるいは下回るような場合にアラートを発信するように設定すれば、結果検証が素早くでき、次の行動がとりやすくなる。人間が意思を持って売場計画を立てて実行し、実行結果のデータをAIが分析し、その分析結果から人間が判断し、次の修正行動について意思決定していく。

このようにPDCAが回しやすくなると、お客様のニーズに合った売場がつくりやすくなる。仮説として、「この商品を、こう売ったら、売れるかもしれない」と思ったら、売ってみる。売ってみれば結果が分かるから、それを検証し、売れたらニーズがあったということだから、もっと売り込む。売れなかった場合は、ニーズがなかったということだから、違う打ち手に変えていく。これを繰り返せば、売場がお客様のニーズに合っていく。

今までの小売業は、商品部主導であることが多かった。多くの店舗を持つチェーンストアは、商品の仕入れなどを考えて実行する機能を本部に集中させ、効率化を図ってきた。「商品部が仕入れた商品」を販売するのが「店舗」であるという位置づけであった。これは、つまり、商品主体の考え方である。これからの流通構造は「お客様中心」になるから、これが変化することになる。店舗は個店別にお客様のニーズが違う。商圏、立地が違うし、競争相手も違う。お客様のニーズに合った売場を個店別につくるのは、もはや商品部主導では無理がある。商品部の仕入れ機能は残したまま、商品部が商品の情報を十分に流し、各店舗がその情報を読み込んで、自店のお客様のニーズに合わせた売場をつくっていかなければならない。自店のお客様のニーズについて仮説を立て、売ってみて、その結果を検証し、修正をするというPDCAのサイクルを回すことで、お客様のニーズに合った売場にしていく。個店別に、曜日別や時間帯別にPDCAを回せば、きめ細かな仮説、検証ができるようになる。小売業の現場で、できるだけ多くの人がPDCAを回せるようになれば、お客様のニーズに寄り添った売場づくりができるようになる。

PDCAを回すには、まず仮説を立てることが求められる。AIはこれまでの情報を分析して次を予測するのは得意であるが、分析した結果から仮説を立てるのは得意ではない。分析した結果から、売り方、売場づくりの新しいアイデアを出し、新しい商品を創造するのは、いくらAIが進化しても、人間の仕事であり続ける。

大久保恒夫著『AI流通革命3.0』(ビジネス社)より