※このコラムは、2019年2月に出版の大久保恒夫著『AI流通革命3.0』(ビジネス社)より、抜粋・編集したものです。
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(続き)
店舗小売業の問題点②:来店コストと持ち帰りコスト
店舗小売業は、お客様に来店いただくことで成立している業態だ。しかし、ここには存在意義を覆すような大きな問題点がある。
そもそも高齢者のお客様や、小さな子供がいる母親は外出がしにくいし、遠方にも行きにくい。昨今は女性の就業率も増加しており、日中の昼間に夕食の買い出しに行くというような買物行動もとりにくくなってきた。今後、高齢者や女性就業者は増加していくと考えられるが、店舗小売業はこれに対応しにくいのである。
一方ネット通販であれば、家にいながらにして好きな時間に買い物をすることができる。スマートフォンであれば、電車に乗っていても、外出中でも、いつでもどこでも買い物ができる。ものすごく便利だ。
買ったものを持ち帰らなければならないというのも、店舗小売業の抱える問題だ。大きな商品や重い商品は持ち帰りにくい。特に高齢者や女性にとっては大きな負担である。アイスクリームのような冷凍食品、刺身のような要冷蔵食品のように、温度管理しなければならない商品の持ち帰りも大変だ。ネットショッピングであれば、温度帯管理をしたうえで、自宅まで運んでくれる。配送時間の指定もできる。費用さえかからなければ、配送してもらいたいと思うのが当然である。
店舗小売業の問題点③:所有することへの意識の変化
店舗小売業は店舗で商品を販売し、お客様は購入した商品を「所有」する。ここに大きな意識の変化が起こりつつある。モノが不足している時代は、モノを購入したいという欲求や、モノを所有したいという欲求が強かった。しかし現在はモノ余りで、購買欲求も、所有欲求も強くない。家はモノであふれている。特に若い人になればなるほど、所有欲求が弱くなってきている。ITの進歩によって、借りる手間や返す手間、費用がかからないようになれば、シェアリングが拡大して、その分店舗小売業の売上げは減少していくであろう。
店舗小売業がネット小売業に勝つために
こう見ていくと、店舗小売業が抱える問題点は多い。これまで店舗小売業の売上が伸び続けていたのは、たまたま店舗小売業が他の小売形態よりましだっただけだと思えてくる。店舗小売業がベストとは限らないし、理想形ではないのだ。ITの革新によって、ネットを活用した無店舗小売業の魅力度が増してきた。店舗小売業の売上は確実に減少していく。それも急速に、加速度的に減少していくはずだ。
もちろん、店舗小売業にもネットに負けない良さはある。店舗では実際に商品を見て、触って、感じて、確認することができる。その場で持ち帰ることができるし、場合によっては食べることもできる。店舗小売業のよさと、ネット小売業の良さを融合していけば、もっとお客様の要望にお応えすることができる。店舗とネットの融合は、これからの店舗小売業の重要な課題になる。
進化したITのメリットを享受するのは、なにもネットショッピングに限った話ではない。店舗小売業も、ITを正しく活用すれば、効率化をすすめ、お客様の要望にお応えし、売上、利益を上げていくことができる。これまで勘と経験や、職人芸に頼っていたものを、ITを使ってより正しい判断ができるようにしていけば、売場がよくなり、生産性が上がる。これは人間の作業をAIやロボットに置き換えるといった単純な話ではない。
しかし、これに対する店舗小売業の危機意識も低すぎる。小売業はまたいつものように、どこかの企業の成功を真似ればいい、と思っているのでないか。それでは対応できないほどの大きな環境変化が起きているのである。今から危機意識を持って、環境変化に対応し、組織をあげて環境変化に対応できれば店舗小売業も成長できる。環境変化に対応できなければ確実に衰退する。環境に変化できる店舗小売業と、できない小売業の格差は大きく広がっていく。
店舗小売業がネット小売業に勝つためには、店舗小売業にしか提供できない価値を磨いていくべきだ。
小売業は人間産業である。これはネット社会になっても変化するものではない。人間が人間を喜ばすのが小売業だ。人間にしかできないことが確実にある。にぎやかさやふれ合いは店舗でなければ演出できない。どんなにネット小売業の魅力が上がってきても、店舗に来店したくなる理由があれば、店舗小売業はネット小売業に勝つことができる。店舗でしかできない、人間がやるべき楽しさや感動を演出するのである。
店舗の立地、外観、内装や売場での陳列什器や展示での演出、実演販売や製造作業の演出によるライブ感、イベントなど、店舗でなければできない楽しさや感動といったエンターテインメントがある。接客でのふれ合いや、会話をするという喜びがある。陳列、商品パッケージのこだわりも、店舗でなければ活かされない。そういう売場を作り、接客できる人を育てなければならない。容易ではないが、挑戦する価値はある。地域社会、コミュニティーへの貢献も店舗小売業の大切な機能である。ネットショッピングに負けることなく、地域社会に密着した多くの店舗小売業が生き残って欲しいと期待している。
大久保恒夫著『AI流通革命3.0』(ビジネス社)より