【大久保コラム】AI、ビッグデータで店舗小売業はどう変わる ―店舗小売業の問題点①―

※このコラムは、2019年2月に出版の大久保恒夫著『AI流通革命3.0』(ビジネス社)より、抜粋・編集したものです。

2034年、インターネット販売の構成比は30%以上に

経済産業省が発表した2014年の商業統計によると、無店舗販売の売上は6.22兆円となっている。小売業計の売上122.2兆円から自動車、燃料売上を除いた売上は94.3兆円で、それに対する無店舗販売の売上構成比は6.6%だ。
インターネット販売を中心とした無店舗販売が今後さらに伸びる。2025年ごろから、社会環境が大きく変化することにより、無店舗販売の売上伸長は加速するだろう。
例えば今後20年間、無店舗販売が年率8%の勢いで拡大すると、20年後の2034年には、無店舗販売の売上高が29.0兆円になり、小売業全体の売上高が変化しないと考えると、それに占める売上高構成比は30.7%になる。
2014年の総合スーパーの売上高は6.0兆円、コンビニエンスストアは6.5兆円だ。無店舗販売の売上高の29.0兆円はその4倍以上となる。現在の総合スーパーやコンビニエンスストアの4倍以上のインパクトを無店舗販売は社会に及ぼすのである。
小売業の歴史を紐解けば、1970年代は総合スーパーが躍進し、1980年代はコンビニエンスストアが伸長。約半世紀をかけて流通構造は変化をしてきた。これから20年で、その何倍もの変化が起きようとしている。まさに流通ビッグバンだ。

お客様の大きな購買行動の変化の波

今後20年で無店舗販売の売上高が6.22兆円から29.0兆円まで拡大するとなると、23兆円の増加である。日本の小売業全体の売上高は拡大しないと予想されるので、この増加分は、店舗小売業のどこかが喰われるということだ。
ITが急速に進歩し、ミレニアル世代を中心とした若年層の意識は大幅に変化している。今後、高齢者も社会環境の変化に対応して、購買行動が変わっていくだろう。
AI、IoT、ロボットなどの進歩が話題になり、環境変化のスピードは想像を絶するものとなる。今までの常識の延長線上では考えられないような購買行動となることは確実だ。
小売業は、変化対応業と言われている。これまでも、お客様の購買行動の変化に、日々努力で対応してきた。その努力は立派なものであると思う。しかし、これからの購買行動の変化は、日々の努力で対応できるレベルのものではない。今までの常識や経験は通用しなくなる。小売業界は、危機意識をもって、根本的、構造的に変化に対応していく必要がある。
経営幹部がリーダーシップをとって、組織全体でスピードを上げて何らかの手をうち、結果を検証しながら、次の手を打ち続けていかなければならない。長期的な視点をもって、変化対応の手を打たないと、じり貧になることは目に見えている。小売業は変化対応業だ。企業規模が大きいからとか、今現在利益が出ているから、というのは全く関係ない。20年で環境は大きく変わる。そして、20年はあっという間だ。環境の変化に対応した企業だけが生き残るであろう。

店舗小売業の問題点①:品揃えと在庫量のミスマッチ

現在、小売業の中心は店舗小売業である。
いまのところ、小売業の売上の大半は実店舗であげられている。では、店舗小売業が商品の販売に最も適した業態なのだろうか?そこに問題はないのだろうか?
店舗小売業は、根本的な問題をいくつか抱えている。まず、不特定のお客様の、確定していない要望を予測しているためにおこる、品揃えと在庫数量のミスマッチは大きな問題だ。
店舗においてどのような商品を販売するかという「品揃え」は、店舗に来店して買い物をするお客様を予測して決められている。
売場に陳列されている商品の在庫数量も、この先どれだけ売れるのかという確定した数量に合わせているわけではない。
一方、ネット小売業であれば、特定のお客様の注文があってから販売することになる。また、店頭の陳列スペースのことを考える必要もないため、ロングテールと言われるような、膨大な種類の品ぞろえが可能だ。その豊富な品揃えの中から、お客様が要望に合った商品を選択できる。また、お客様がほしい数量を確定してから販売するので、在庫の数量の適正化もしやすく、品切れやロスも少なくなる。
膨大な品揃えを実現するのは容易なことではないが、AmazonやYahoo!ショッピング、楽天市場をはじめとするマーケットプレイスは、出店者の力を利用して、実店舗では実現できないような品揃えを実現してきた。
膨大な品揃えから、自分のほしい商品を選択することは容易ではない。既にネット小売業は、こちらが要望していなくても、ある商品を購入すれば、一緒に買いそうな商品を、AIでリストアップして、広告で推奨してくる。今後はAIの高度化や、ビッグデータの充実により、膨大な品揃えの中からでも、選択がしやすいようになっていくだろう。 (次回へ続く)

大久保恒夫著『AI流通革命3.0』(ビジネス社)より

AI流通革命3.0